清田区民センターで8月10日(木)に行われた地下鉄東豊線建設促進期成会連合会の令和5年度定期総会。その場で、地下鉄延伸を巡る最近の動きについて、期成会事務局から報告がありました。地下鉄延伸を巡る動きが分かるので、報告の基になった期成会の総会配布資料を公開します。

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■地下鉄延伸を巡る最近の動きについて―秋元市長が前向き発言

1 「採算性」から「総合的に判断」へ

清田区役所前で街頭演説する秋元市長=2023年3月28日

 秋元市長の発言が以前より前向きになってきた印象があります。秋元市長は従来、「採算性に難があり、人口も減少傾向にあり、現状では延伸できない」の一点張りでしたが、昨年9月、期成会の要望に対して「需要推計を改めて行う」と発言。

 さらに、今年4月の市長選での市長公約や街頭演説等の発言で「延伸については総合的に判断して需要推計を行う」と述べ、「総合的に判断」という文言を使い始めました。

 これは期成会が前から「公営交通なのだから、採算性だけでなく、まちづくりの観点など『総合的に判断』すべし」と要望してきたことに対応したものと思われます。

2 スポーツ交流拠点に地下鉄延伸は必要不可欠

 秋元市長は、札幌ドームに続く北海道農業研究センターの土地に「スポーツ交流拠点」(アリーナ、屋外競技場など)を建設し、さらに国のハイパフォーマンスセンター誘致にも取り組むと、改めて市長選公約で言明。令和5年度の市予算で、この調査費を計上しました。

 今後、これらの利用者や観客をさばく大量輸送の交通インフラが必要になるのは明らかであり、地下鉄延伸に弾みがつくことが期待されます。

3 札幌の雪害を克服する地下鉄=防災インフラ

バスが全面的に運休。清田区は陸の孤島と化す=2022年2月22日

 2022年2月、札幌を襲った大雪災害で、清田区内のバスはほとんど運休となりました。特に清田中央地区は何日もバスが入れず、暮らしに大きな影響が出ました。

 この大雪にもかかわらず地下鉄は平常運行を続け、改めて豪雪地帯の大都市、札幌の地下鉄の価値の大きさが示されました。しかし、地下鉄のない清田区はその恩恵にあずかれません。

 秋元市長は、4月の市長選で、再三、札幌の雪害について言及し、「地下鉄は雪害に強く、札幌の交通体系に極めて重要」と発言。これは、地下鉄の清田延伸に絡めての発言です。ここにも「延伸を、採算性だけでなく総合的に判断しよう」という市長の姿勢の変化が感じ取れます。

4 国が「30年黒字化」にこだわらない見解→上田前市長「だったら清田延伸を検討した方がいい」

 市長は従来、「30年間で累積黒字にならないと国が認可を認めてくれない」と延伸できない理由を説明してきましたが、昨年2月、国会予算委員会で荒井優議員の質問に、国土交通省鉄道局長が「地方公営交通は、事業主体がしっかりしているので30年にこだわらない」と答弁しました。この答弁の持つ意味はとても大きいものがありました。

上田前市長も「清田への延伸検討を」

 国の「30年」基準を持ち出して、「延伸は無理」と期成会に言っていた上田前市長が「国の姿勢がそうなったのだから、延伸をちゃんと考えたらいいのではないか」と明確に発言したのです。これは、今年3月と5月、期成会が2度にわたって上田前市長と面会し、意見を求めたことに対する回答です。

 地下鉄の清田までの建設は、板垣市長時代の昭和54年(1979年)に打ち出され、後継の桂市長も2001年、改めて清田延伸にゴーサインを出していました。

 ところが、上田市長になって「採算性に難あり」として一転、延伸を凍結させてしまい、秋元市長も基本的に受け継いできました。しかし、いまや、凍結方針を打ち出した上田前市長も「延伸」に舵を切った形です。

5 ラピダスの千歳進出と交通インフラ整備

 今、地下鉄延伸の追い風になりそうなのが、国家プロジェクトともいえるラピダスによる千歳の次世代半導体工場の建設です。

 ラピダスは苫小牧-千歳-札幌―石狩に至る一帯をデジタル産業の一大集積基地とする「北海道バレー構想」を提唱しています。このような動きを弾みに、千歳方面のゲートウェイである清田まで地下鉄を延伸することについて、秋元市長本人を含め関係者から言及する声が上がっているのです。

 秋元市長は4月の市長選で、ラピダスによる千歳の次世代半導体工場建設、北広島のエスコン新球場の開場などを挙げ、人の流れが豊平、清田方面に出てくるとし、こうした点を踏まえて地下鉄延伸を考える姿勢を打ち出しました。これも「総合的な判断」の一つです。

■秋元市長は市長選で何と公約したか

①秋元市長の選挙公約

「地下鉄清田方面延伸の可能性について、今後の札幌ドーム周辺における土地利用の状況や将来的な需要の推計等を踏まえて、総合的な検証を行います」
→(解説)「総合的な検証」と、初めて言っています。採算性以外の要素も加え「総合的に判断」すると受け取れます。

②市長選公開討論会での秋元市長の発言

「地下鉄延伸については、札幌は積雪寒冷地でありますので、冬の交通を考えたときに地下鉄は札幌にとって非常に重要です。

 一方で、今の日本では、地下鉄延伸などは交通事業者(札幌の場合は交通局)が事業費を出して建設し、それを料金で回収するという仕組みであります。

 (地下鉄延伸は)国から交通事業の許可がいるわけですが、将来的な収支予測や需要予測を出して、何年かたって黒字になってゆくという状況になって初めて許可が出るのです。

 今、残念ながら清田方面について需要予測をすると、黒字になる数字が出てこないのです。従って、現状では、国に対し認可申請ができない状況です。

 ですから、ここは(収支以外にも)(地下鉄延伸の)必要性というものでは、雪というもの(に着目したい)。昨年の大雪の状況の中でも、地下鉄沿線で地下鉄を使って(会社や学校に)通われる方については大きな支障はありませんでした。その意味で札幌の交通体系としては、地下鉄は非常に重要です。

 ただ、需要予測がきちんと出なければ認められないということなので、(地下鉄東豊線および延伸ルート)周辺の人の動きだとか、(札幌ドーム周辺の)土地利用だとか、そういった状況を見て、さらに検討を進めていかなければならないと考えています」

→(解説)期成会が求めてきた「採算性だけで判断するのではなく、交通の必要性や雪害の問題、まちづくりの視点など総合的に判断すべし」という主張に寄ってきた印象。

③選挙戦での秋元市長の街頭演説1=3月28日、清田区役所前

地下鉄延伸への思いを熱く語る秋元市長=清田区役所前

「地下鉄延伸は多くの区民のみなさんの念願です。昨年のような大雪の時でも、地下鉄があれば安心して通勤通学ができる、そういう区民の皆さんの思いを重く受けとめています。

 現時点では将来の採算性が見込めない状況ではありますが、引き続き、札幌ドーム周辺の様々な新たな土地利用で人の流れが変わっていきます。そのことを将来推計に生かし、地下鉄延伸の検討を進めて参ります」

④選挙戦での秋元市長の街頭演説2=4月1日、東光ストア真栄店前

地下鉄駅とバスターミナル設置が求められている清田地区

「この清田区、唯一の課題は交通問題です。昨年の冬、大雪の状況の中で地下鉄の力は非常に大きいものでした。区民の皆さんから毎年、地下鉄延伸の要望をお寄せいただいています。私もしっかりとその思いを受け止めております。思いは皆さんと一緒です。

 ただ、地下鉄延伸計画を実現するには、今の仕組みでは、建設費を運賃収入で賄って、将来、黒字になる計画を作っていかなければならないわけです。これが現状ではクリアできない。(清田の地下鉄延伸には)こうした様々な制度や仕組みが変わっていくことが求められます。

 あるいは、今、札幌ドーム周辺に新たな交通エリアが生じるような国のハイパフォーマンスの誘致を目指しています。

 こういうものが実現すると、札幌ドーム周辺の人の流れも変わって来るし、また今、北広島に新球場ができ、千歳には半導体工場が誘致されます。人の流れが大きく変わってくることで、将来の人の移動がどう変わっていくのか、それが需要推計にどうかかわっていくのか、しっかりと調査していきたい。

 住民の皆さんの想いを実現していくために着実にステップを踏んで取り組んでいきたい」

→(解説)従来、「採算性」を唯一の判断根拠として、延伸は困難としてきた市長。最近の発言は、採算性以外にも様々な要素を踏まえて「総合的に判断」する意向を見せ始めており、以前より前向きと評価できます。